🐱猫はなぜことわざにされるのか?日本人に刻まれた“猫のイメージ”

昔の人は猫をどう見ていた?由来で読み解く猫文化
猫は古くから人のそばで暮らしてきた動物。
そのため、日本には「猫」を題材にしたことわざが数多く残っています。
昔の人は猫をどう見ていたのか?
そして、そのイメージはどのように言葉になったのか?
本記事では、“猫ことわざ”に込められた意味や由来をひも解いていきます。
猫好きにも、言葉好きにも楽しめる“猫ことわざの世界”へご案内します。

① 猫をかぶる
意味:本性を隠しておとなしく見せること
このことわざは、江戸時代にはすでに使われており、猫という動物の“二面性”をもとに生まれたと考えられています。

■猫の“二面性”
猫は普段は気まぐれで自由奔放に振る舞いますが、知らない人の前では急におとなしくなることがあります。
現代の動物行動学でも、猫は環境の変化に弱く、初対面では固まったり静かになったりする傾向が確認されています。
こうした“本来の姿”と“外向きの姿”のギャップが、「猫をかぶる=本性を隠す」という比喩につながったと考えられています。
■「〜の皮をかぶる」という古い比喩
日本語には昔から、「〜の皮をかぶる=本性を隠す」という比喩表現が存在します。
- 「狐の皮をかぶる」(江戸時代の文献に登場)
- 「羊の皮をかぶった狼」(イソップ寓話が由来)
など、他の動物を用いた同じ構造の表現が複数見られます。
そのため、“猫の皮をかぶる=猫のように大人しいふりをする”という発想は、日本語の比喩表現の中で自然に成立したと考えられます。
■女性に対して使われることが多かった
江戸〜明治期の文学作品では、「猫をかぶる」は特に女性に対して使われる例が多く見られます。
当時の文化では、「猫=しなやか・気まぐれ・女性的」というイメージが強く、この価値観がことわざの定着に影響したと考えられています。
② 猫に鰹節
意味:誘惑が多すぎて危険な状況
猫と鰹節は、いわば「大好物を目の前に置いて見張りを任せるようなもの」。
猫にとって鰹節は強烈に魅力的な食べ物なので、そばに置いておけば、盗み食いされるのは目に見えています。
つまり、「絶対に油断してはいけない危険な組み合わせ」 の象徴として、江戸時代にはこのことわざが使われていました。

■江戸時代の台所事情
江戸時代、鰹節は今よりもずっと貴重な食材でした。
保存食として重宝され、値段も高く、庶民にとっては“ごちそう”に近い存在。
一方で、猫は家の中を自由に歩き回り、
鰹節の香りに強く惹かれる動物としてよく知られていました。
そのため、
- 鰹節を棚にしまい忘れる
- 風呂敷に包んだまま置いておく
- 料理中に目を離す
といった“油断”があると、猫が盗み食いすることが頻繁にあったようです。
この生活背景から、
「猫に鰹節を預けるようなものだ」=危険すぎる
という比喩が生まれたとされています。
■行動学的にも“リアル”な比喩
現代の猫でも、
- 魚の匂いに強く反応する
- 乾物を盗み食いする
- 高い場所や棚を開けて侵入する
といった行動がよく見られます。
つまり、「猫に鰹節」は、昔の生活だけでなく、現代の猫の行動から見ても非常にリアルな比喩なんです。
■ことわざとしての使われ方
この表現は、
- 危険な組み合わせ
- 誘惑に弱い相手に大事なものを任せる
- トラブルが起きるのが目に見えている状況
などを指すときに使われます。
例:
- 「お金にルーズな人に財布を預けるなんて、猫に鰹節だよ」
- 「甘いもの好きの彼にケーキの番を頼むのは猫に鰹節」
③ 猫の首に鈴をつける
意味:良い案でも、実行が難しいこと。言うのは簡単だが、実行するのは危険・困難であること。

■由来:ヨーロッパの寓話「猫とネズミ」
このことわざは、日本で生まれたものではなく、
ヨーロッパのイソップ寓話が元になっています。
🐭物語のあらすじ
ネズミたちは、いつも自分たちを襲う猫に怯えていました。
そこで会議を開き、あるネズミがこう提案します。
「猫の首に鈴をつければ、近づいてきても音で分かるぞ!」
皆は「それは名案だ!」と大喜び。
しかし、長老のネズミが静かに尋ねます。
「では、その鈴を誰がつけに行くのか?」
誰も答えられず、会議は沈黙に包まれました。
この寓話から、「案としては良いが、実行できる者がいない」という意味のことわざが生まれました。
■日本への伝来
この表現は、
- 江戸末期〜明治期に西洋の寓話が翻訳される
- 学校教育や読み物として広まる
- 日本語のことわざとして定着
という流れで日本に入ってきました。
つまり、日本の生活文化から生まれた「猫ことわざ」ではなく、輸入された比喩なんです。
■ことわざとしての使われ方
「猫の首に鈴をつける」は、“理屈は正しいが、実行者がいない案”を指すときに使われます。
例:
- 「その改善案は正しいけど、実行する人がいない。”猫の首に鈴をつける”話だね」
- 「理想論だけで、誰も動かない。まさに”猫の首に鈴をつける”だよ」
④ 猫の目のように変わる
意味:物事がコロコロ変わる

■由来:猫の瞳孔は“光で形が激しく変わる”
このことわざの由来は、猫の目(瞳孔)が明るさによって丸くなったり細くなったり、形が大きく変わることにあります。
- 明るい場所 → 目が細くなる
- 暗い場所 → 目が丸く大きく開く
この変化がとても早く、はっきりしているため、天気・人の気分・状況・流行など、変わりやすいものの象徴として使われるようになりました。
■文献的な裏付け
辞典では以下のように説明されています:
- 「猫の目とは、物事がめまぐるしく変化することのたとえ」
- 「猫の瞳孔は光の強さで形が激しく変わることから」
また、江戸時代の洒落本『跖婦人伝』にも用例があり、古くから使われていた表現であることが確認できます。
■ことわざとしての使われ方
- 「今日の天気は猫の目のように変わる」
- 「あの人の言うことは猫の目みたいにコロコロ変わる」
※「忙しく動く」という意味ではないので注意が必要です。
⑤ 猫は三年の恩を三日で忘れる
意味:長い間の恩をすぐに忘れてしまう“恩知らず”のたとえ。
これは昔の人々が「猫=つれない・気まぐれ」というイメージを持っていたことから生まれた、俗信的なことわざです。

■由来:猫は“人に従わない動物”という昔のイメージ
故事ことわざ辞典では、「飼い主の命令に従う犬とは違い、猫は単独行動を好む習性があることから」と説明されています。
つまり、
- 犬 → 主人に忠実
- 猫 → 気まぐれで恩を感じない
という昔の価値観の対比が、このことわざの背景にあります。
実際には猫も飼い主を覚えますが、昔の人々には「猫はそっけない」「恩を感じないように見える」動物だったわけです。
■対義語:「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」
このことわざは、必ずと言っていいほど犬との対比で語られます。
- 犬 → 忠義・恩を忘れない
- 猫 → 恩をすぐ忘れる
という“昔の人間の主観”がそのままことわざになっています。
■現代の猫の行動学とは一致しない
現代の研究では、猫は飼い主を認識し、記憶し、愛着も示すことが分かっています。
つまり、このことわざは科学的事実ではなく、昔の人の印象を誇張したものです。
昔の猫は自由気ままに外を歩き回る存在。
飼い主が世話をしても、ふらっとどこかへ行ってしまうことが多かったため、
「猫は恩を忘れる動物だ」
と誤解されていたようです。
実際の猫は記憶力も情緒も豊かなので、現代の猫好きからすると「そんなわけない!」とツッコミたくなることわざです。

まとめ
猫のことわざには、
- 昔の生活
- 猫へのイメージ
- 人間の価値観
- 海外から伝わった寓話
などがぎゅっと詰まっています。
ことわざを通して猫を見ると、「昔の人も今と同じように猫に振り回されていたんだな」と感じられて、なんだか親近感が湧きますね。


