🐱「猫は液体」説を徹底検証!――どんな隙間にも収まる秘密

箱の中に隙間なく収まった猫

「猫=液体」なんて言葉、猫好きなら一度は耳にしたことがあるはず。
冗談半分に聞こえるこの言葉ですが、実際に猫を飼っていると、狭い箱の中にピタッと体を合わせたり、花瓶に隙間なく収まったり…
その姿はまるで水が器に合わせて形を変えるよう。

そんな姿を目にすると、「あれ、もしかして本当に液体なのでは…?」と本気で思ってしまう瞬間があります。
これには、猫の特徴的な体のつくり、行動のクセ、安全確認の習性など、いくつもの要素が関わっています。

この記事では、見た目の面白さだけでなく、「なぜ猫はあんなに柔らかいのか」を解説していきます。

目次

  1. 体が「液体っぽく」見える仕組み
  2. 行動学的な背景
  3. 猫は「形を変える」達人
  4. 犬との違い~なぜ猫だけが“液体っぽく”見える?~
  5. 科学的な視点で「液体っぽさ」を説明する
  6. 花瓶や極端に狭い場所は安全?
  7. いつも箱に入っているけど、問題ない?
  8. 「柔らかさ」が生まれる成長の過程
  9. 猫種による違いはある?
  10. 家の中で“安全に液体っぽく”楽しむ工夫
  11. よくある誤解をほどく
  12. 研究と観察からわかること
  13. 結論:「猫は液体」は、科学的な柔らかさの比喩

猫=液体説の出どころ

■ネットミームから広がった言葉

「猫は液体」という表現は、SNSや写真投稿文化の中で生まれたな言葉です。
猫が器に流れ込むように形を変えて収まる様子から、比喩として定着しました。

■科学界にも進出したジョーク

2017年、物理学者のマルク=アントワーヌ・ファルジョンが「猫は固体か液体か?」と題したユーモラスな研究を発表し、イグ・ノーベル賞物理学賞を受賞しました。これは猫の柔軟な体の動きを流体力学の観点から説明しようとしたもので、流体の定義は「外部から力を加えられると形を保てず、容器に合わせて形を変えるもの」。
猫もまた、狭い箱や花瓶に入るときに体を自在に変形させ、容器の形にぴったり収まるため、この定義に驚くほど似ていると論じました。
授賞式では、猫が花瓶やボウルに収まる写真が紹介され、会場を沸かせました。

体が「液体っぽく」見える仕組み

■骨格の柔軟性

  • 脊椎がとても柔らかい
    猫の脊椎は椎骨の数が多く、関節や靭帯が柔らかくつながっています。
    そのため、背中をグニャっと丸めたり、バネのようにしなやかに動かせるのです。
    この柔らかさが、箱の中で体を丸めたり、細長い場所に沿って伸びるときの自由度を生み出します。
  • 肩甲骨の可動域が広い
    猫の肩甲骨は、犬よりも関節の構造が柔らかく、自由に動かせる範囲が広いため、肩甲骨そのものが背中の上でスライドするように動くことができます。
    まるで「浮いているパーツ」のように肩が動くため、前足の位置を細かく調整することが可能なのです。

    そのため、狭い箱や隙間に入るときでも、前足を器用にすぼめたり伸ばしたりして、体全体をうまく収められるのです。
    これが「猫は液体」と言われる柔らかさの大きな秘密のひとつです。
  • 鎖骨の縮小がポイント
    猫の鎖骨(鎖骨痕跡)は退化していて、肩回りの動きを阻む骨による制限が少ないのが特徴的です。
    これが「狭い場所でも肩をすぼめられる」一因になっています。

■筋肉と腱のバランス

  • しなやかな筋肉配置
    猫は狩りをする動物として進化してきたため、跳躍や急な方向転換がとても多いのが特徴です。
    獲物を追いかけたり、逆に外敵から身を守ったりする場面では、一瞬で飛び上がったり、急に進路を変えたりする必要があります。

    そのため、猫の筋肉は「速く力を出せる速筋」と「持久力のある遅筋」がバランスよく備わっていて、柔軟に伸び縮みできる構造になっています。
    背中を丸めて体をコンパクトにまとめたり、逆に細長く伸ばして一気にジャンプしたりできるのは、この筋肉の仕組みのおかげです。
  • 背筋と腹筋の協調
    背中を丸める「猫背」の姿勢は、腹部を守りつつ小さくまとまる合理的な形。
    狭い場所に収まるときも、この2つの筋肉の協調が役に立っています。

■皮膚と皮下組織

  • 「余裕」のある皮膚
    猫の皮膚は比較的ゆとりがあり、皮下組織も柔らかいので、見た目以上に形を変えやすいという特徴があります。
    引っ張ると伸び、戻すと元の位置に落ち着く性質が、液体っぽさを演出します。
  • ヒゲの役割
    ヒゲは器の広さや障害物を測るセンサー。
    ヒゲが周りのものに触れることで、箱や隙間の広さを測り、「ここは通れる」「ここは無理」と判断しています。
    ヒゲがぶつからない幅なら「安全に通過できる」と読み取り、狭い場所にも自信を持ってスルッと入っていけるのです。

行動学的な背景

猫が箱などの狭い場所に入りたがるのは、ただの「箱好き」ではありません。
狭い場所が好きな理由には、下記のようなものが挙げられます。

  • 安全確保
    猫は外敵から身を守るために、見通しのよい場所よりも「背中を守れる狭い場所」を好みます。
    箱は四方が囲まれていて安心しやすい典型的な環境です。
  • 体温保持
    狭い空間は体温が逃げにくく、ぬくもりを保ちやすい場所です。
    特に寒い季節には、猫は箱や布団の隙間などを選んで入り込み、心地よく過ごそうとします。
  • 自己調整
    猫はストレスが高いときや新しい環境に来たばかりのとき、隠れやすい場所(箱・キャリー・家具の隙間)に入ることで、安心感を得ようとします。
    この「自己調整」が、箱に流れ込む行動につながります。

猫は「形を変える」達人

  • 丸くなる・伸びる
    眠るときにドーナツ状に丸くなるのは「寒さから身を守る保温と防御」、逆に長く伸びるのは「上がった体温の放熱とリラックス」。
    目的に合わせて形を切り替える柔軟さが、「液体みたい」に見える理由のひとつです。
  • 段差や隙間を読む
    猫はどこかに飛び乗る前に一瞬の静止で距離を測り、着地角度を計算する癖があります。
    同じように、隙間に入る前にはヒゲや鼻先で「通れるか」を読み、通れそうなら体を流し込むように動かします。
ソファの上であおむけになり、前足を伸ばしてリラックスする猫

犬との違い~なぜ猫だけが“液体っぽく”見える?~

  • 骨格の違い:
    犬は走ることに特化した骨格で、肩の可動域や脊椎のしなりは猫ほどではありません。
    猫は「しなやかさ」と「跳躍」に強く、関節の可動域が広いのが特徴です。
  • 行動戦略
    犬は群れで活動し見通しの良い場所でも安心しやすいのに対し、猫は単独行動寄りで隠れ場所を好むため、結果として狭い場所に収まる頻度が高くなります。
  • センサーの使い方
    犬の鼻は嗅覚では圧倒的ですが、猫はヒゲ(触毛)を空間認知に多用します。
    ヒゲで幅を測り、体を「流し込む」ように動くのは猫の得意技です。

科学的な視点で「液体っぽさ」を説明する

1. 流体の定義になぞらえる

  • 流体の定義は「外部から力を加えられると形を保てず、容器に合わせて形を変えるもの」
    猫はもちろん固体ですが、「外的条件(狭い容器)に合わせて形を変える」能力が極めて高いので、見た目が似ていると感じるわけです。

2. 生体力学(バイオメカニクス)

  • 柔軟な脊椎
    猫の椎骨は互いに滑りやすい構造と靭帯の柔軟性を持ち、背中を丸めたり伸ばしたりが自由。
    これは走る・跳ぶ動作にも必要で、静止時には「形を合わせる」能力に転用されます。
  • 関節の遊び
    肩・股関節の「遊び(可動域)」が広く、関節がロックされにくいので、形の変化に抵抗が少ない。
  • 筋膜ネットワーク
    全身を覆う筋膜が滑走性を持ち、皮膚と筋肉が相対的に動きやすい。
    これも“液体らしさ”を助けます。

3. 感覚と意思決定

  • ヒゲで幅を測る
    猫のヒゲの幅は体幅とほぼ相関があり、「ヒゲが通るなら体も通る」という経験則で行動します。
  • 危険評価
    入る前に匂いや音、振動を確かめる「評価フェーズ」があり、問題がなければ素早く体を押し込む行動へ移ります。
    このスイッチの速さが「流れ込む」印象を与えます。

花瓶や極端に狭い場所は安全?

  • 基本はNG:
    花瓶や極端に狭い器は、出られなくなったり、首や胸が圧迫される危険があります。
    事故リスクが高いため避けるのが賢明です。
  • 安全に配慮した“箱”を:
    ダンボールや適度なサイズの収納ボックスなど、出入りしやすく通気のあるものを選ぶのがおすすめです。
  • 窒息・誤飲の注意
    ビニール袋、強い香りの器、割れ物は避けましょう。
    猫は好奇心が強いので、魅力的でも危険なものには蓋をして入れないようにしておくことが大切です。

いつも箱に入っているけど、問題ない?

  • 多くは正常
    箱や狭い場所が好きなのは猫の性質として自然なこと。
    特に新しい環境・来客・騒音など、刺激が多いときに好みが強く出ます。
  • 気になるサイン
    「食欲低下」「排泄の変化」「呼吸が速い」「うずくまって動かない」「触ると痛がる」といった症状が「箱に逃げる行動」とセットで見られる場合は、体調不良の可能性も。
    気になる行動が続くときは獣医師に相談を。
  • ストレス軽減
    隠れ場所を複数用意し、上下移動できるキャットタワーやシェルフを整えると、安心して過ごせます。
部屋の中に設置されたペットハウスの中に入って安心している様子の猫

「柔らかさ」が生まれる成長の過程

  • 子猫期
    関節や筋膜が柔らかく、何でも体験して形の調整を学びます。
    箱・袋・隙間への好奇心はこの時期に強く育ちます。
  • 成猫期
    筋肉がつき、柔らかさとしなやかな力が両立していきます。
    最も“液体らしく”見える時期でもあります。
  • シニア期
    関節の可動域が狭くなりがちですが、暖かく柔らかい寝床を複数用意すれば、無理なく「収まる」行動を継続できます。

猫種による違いはある?

  • 長毛種と短毛種
    被毛の量で「ふくらみ」が違うため、見た目の液体感が変わります。
    長毛はふんわり、短毛は輪郭がはっきり。
  • 骨格差
    オリエンタル系(細身で長い体)とコビータイプ(丸みのある体)では、入るのが得意な隙間のタイプが少し違います。
    ただし「箱好き」はほぼ共通の性質です。
  • 個体差が大きい
    狭い場所が好きかは、性格(大胆・慎重)・経験(安全だった場所を覚える)に左右されます。
    猫種よりも「その子の学習」による違いが大きいといえるでしょう。

家の中で“安全に液体っぽく”楽しむ工夫

  • サイズ別の箱を用意
    小・中・大と複数置くと、その日の気分で選べます。
    入口は広め、ふちが鋭くないものを選ぶと安全性が高いです。
  • 上下の隠れ家
    床面の箱に加え、棚の隙間やキャットタワーのボックスで「見晴らし」と「隠れ」を切り替えられるように。
  • 温度と素材
    夏は通気の良いボックス、冬はフリースや段ボールに毛布を用意することで、体温調節もしやすくなります。
  • 写真を撮るとき
    「無理に器に押し込まない」「出たがったらすぐ終わりにする」「フラッシュは使わない」など、安全第一で楽しみましょう。

よくある誤解をほどく

  • 「猫はどんな隙間でも通れる
    →誤解: 頭が通れば体も通れることは多いですが、脂肪や被毛、体格によって無理なことも。無理に通そうとすると怪我につながります。
  • 「狭い場所が好き=性格が臆病」
    →誤解の可能性も: 隠れるのは安全確保の正常行動です。臆病かどうかは、環境や経験にも左右されます。
  • 「液体みたいに柔らかい=骨が弱い」
    →誤解: 柔らかさは関節可動域と筋膜の滑走性によるもの。骨が弱いわけではありません。

研究と観察からわかること

  • 箱がストレスを下げる効果
    シェルターで新しく保護された猫に箱を用意すると、ストレス指標が改善し、適応が早くなるという報告があります。
    隠れ場所が「心の安全基地」になるのです。
  • ヒゲの幅の意味
    ヒゲは周囲のものに触れると微細な振動を伝え、神経に信号を送ります。
    ヒゲ幅は体幅の「概算」で、通過可否の判断に役立ちます。
  • 柔軟な脊椎の恩恵
    しなりのある脊椎は、走る・跳ぶ・ひねる動作に不可欠で、日常の「収まりの良さ」もこの柔軟性に支えられています。

結論:「猫は液体」は、科学的な柔らかさの比喩

猫はもちろん固体ですが、柔らかな骨格、筋膜の滑走性、皮膚のゆとり、ヒゲによる空間認知、そして隠れ場所を好む行動が重なり、容器に合わせて形を変えて液体のように見える瞬間が生まれます。
だからこそ、狭い箱に流れ込む姿は、ただ面白いだけでなく、猫が安心を求めて自分なりに居心地を整えている証でもあります。

この「液体っぽさ」を安全に支えながら、猫の心に寄り添って暮らしていけたら素敵ですね。