🧪理化学研究所 和光地区一般公開2025に行ってきました|量子と時間の不思議に触れる一日

2025年10月18日、秋晴れの土曜日。
埼玉県和光市にある理化学研究所(理研)和光地区で開催された「一般公開2025」に行ってきました。

普段は入ることのできない研究施設が開放され、研究者の方々と直接話せる貴重な機会。
今年は「科学の扉、ひらきます。」というテーマのもと、72もの展示と講演が用意されていて、まさに“研究所まるごとオープンデー”でした。


🚪科学の扉を開けて──最先端の量子研究に触れる

まず向かったのは、量子コンピュータ関連の展示。
理研では現在、量子コンピュータとスーパーコンピュータを連携させる計算技術とプラットフォームの開発が進められているそうです。
量子の世界と従来型コンピュータの融合──まさに未来の計算技術の基盤づくりが行われている現場です。

展示ブースでは、イオントラップ型量子コンピュータ「黎明(れいめい)」の模型が公開されていました。
透明なケースの中に置かれた電極構造は、まるでSF映画のワンシーンのよう。
その場にいた研究所の方から、イオンを電磁場で閉じ込めて量子ビットとして使う仕組みのお話を聞き、量子の不思議さと技術の精密さに圧倒されました。



🖥スーパーコンピュータ「富岳」から「富岳NEXT」へ

次に訪れたのはスーパーコンピュータ関連の展示。
現在稼働中の「富岳」は、世界トップクラスの性能を誇るスーパーコンピュータですが、すでに次世代機「富岳NEXT」の開発が進んでいるとのこと。

展示では、「富岳NEXT」が目指す性能やネットワーク設計、AIとの連携などが紹介されていました。
特に印象的だったのは、量子コンピュータとの連携を前提とした設計思想
量子の世界と、これまでの従来型コンピュータを組み合わせることで、より複雑で高度な計算が可能になる未来像が描かれていました。



🎤田渕先生による特別講演「超伝導量子コンピュータ」

午後には、量子コンピュータ研究センター 超電導量子計算システム研究ユニットの田渕先生による特別講演「超伝導量子コンピュータ」を聴講しました。
この講演は、量子科学100年記念企画として開催されたもので、開演20分前には約半数の席が埋まり、開演時間には立ち見も多数出るほどの人気ぶり。

講演では、超伝導量子ビットの仕組みや、冷却技術、誤り訂正の課題などがわかりやすく解説されました。
産業界では「量子コンピュータ」がバズワードのように盛り上がっていますが、田渕先生の語り口はとても冷静で、研究者としての“温度感”が印象的でした。
研究の現場がいかに地道で、長期的な視野を持っているかを感じました。



⏳「時間は反転できるのか?」──マクスウェルの悪魔と熱力学の不思議

もうひとつ印象に残ったのが、「時間は反転できるのか?」というテーマの展示。
ここでは、マクスウェルの悪魔という物理学の思考実験を通して、時間とエネルギーの関係について学ぶことができました。

たとえば──
熱いお湯は時間が経てば冷めて水になります。でも、水が自然にお湯に戻ることはありません。
これは、私たちが日常的に感じている「時間は一方向に進む」という現象の一例です。
物理学ではこれを「エントロピーが増大する」と表現します。つまり、秩序ある状態(お湯)から、乱れた状態(水)へと進むのが自然な流れなのです。

では、もしその流れを逆転できる存在がいたら──?
それが「マクスウェルの悪魔」です。

この“悪魔”は、箱の中にある分子の動きをすべて見分けて、
高エネルギーの分子だけを一方に、低エネルギーの分子だけをもう一方に分けることができると仮定します。
すると、外からエネルギーを加えなくても温度差が生まれ、熱が流れる方向が逆転することになります。

つまり、水が自然にお湯に戻るような現象が起こるかもしれない──というわけです。

でも実際には、悪魔が分子を見分けるためには情報を処理する必要があり、その情報処理にはエネルギーが必要になります。
このことから、「マクスウェルの悪魔」は熱力学第二法則(エネルギーは拡散する方向にしか進まない)を破ることはできないという結論に至ります。

この展示を通して、「時間はなぜ一方向にしか進まないのか?」という根源的な問いに触れることができ、
日常の“当たり前”が、実は深い物理法則に支えられていることを実感しました。



📝まとめ|科学は遠くて近い、未来への扉

理化学研究所 和光地区の一般公開2025は、最先端の研究に触れながら、科学の本質に近づける一日でした。
量子コンピュータやスーパーコンピューターといった未来技術の展示はもちろん、「時間」や「情報」といった哲学的なテーマにも触れることができ、知的好奇心が刺激されっぱなし。

そして何より、研究者の方々の誠実な語り口や、地道な努力の積み重ねに触れることで、科学とは“人の営み”であることを実感しました。
科学は難しいものではなく、“わからない”を楽しむことから始まる──そんなメッセージが、会場全体に流れていたように感じます。