現代の犬は脳が大きく進化してる!?
犬の脳の大きさについて考えたことはありますか?
近年の研究によって、犬の脳は単に「小さい」だけではなく、人間との関係性の中で進化を遂げてきたことが明らかになってきました。
🐺家畜化による脳の縮小──定説の再検証
これまでの動物行動学では、「家畜化された動物は脳が小さくなる」というのが定説でした。
実際、オオカミと犬を比較すると、犬の脳は平均して20%ほど小さいとされており、これは「狩り」や「危険回避」といった野生での複雑な判断力が不要になったためと説明されてきました。

🔬CT画像850頭分を解析──最新研究の概要
ところが2023年、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学とスウェーデンの研究チームが発表した論文(Evolution誌掲載)では、この定説に一石を投じる結果が報告されました。
- 調査対象:159犬種・850頭以上の犬のCT画像、および48頭のオオカミの頭蓋骨標本
- 手法:CT画像から脳容積を推定し、犬種ごとの相対的な脳の大きさを比較
- 主な発見:
- オオカミから遺伝的に遠い犬種ほど、脳の容積が大きい傾向がある
- 使役犬(牧羊犬・警備犬など)と脳の大きさには明確な相関が見られなかった
この結果は、単に「家畜化=脳の縮小」という単純な図式では説明できないことを示しています。

🧩社会脳仮説──都市型犬種の脳が大きい理由
研究チームはこの現象を「社会脳仮説(Social Brain Hypothesis)」で説明しています。
これは、複雑な社会的環境で生きる動物ほど、脳が大きくなる傾向があるという理論です。
現代の犬は、都市化された環境で人間と密接に暮らし、以下のような高度な認知を日常的に求められています:
- 飼い主の感情や意図を読み取る
- 他の犬や人との関係性を築く
- 交通ルールや生活リズムに適応する
- 留守番中に状況を判断して行動する
こうした環境では、単なる命令への反応ではなく、状況判断・共感・記憶といった複雑な認知能力が必要になります。
その結果、脳の容積が進化的に増加した可能性があるのです。

🐶犬種による違い──愛玩犬と使役犬の分岐
さらに興味深いのは、犬種によって脳の大きさに差があるという点です。
- 愛玩犬や都市型犬種:人間との密接な関係性が求められるため、脳の容積が大きくなる傾向
- 使役犬(牧羊犬・警備犬など):特定の作業に特化しているが、脳の全体容積には反映されにくい
研究チームは、「使役作業は脳の特定部位だけを使うため、全体の容積には影響しない可能性がある」とも述べています。
🧠脳の進化は“共生”の証
この研究は、犬の脳の進化が「人間との共生」という環境要因に大きく影響されていることを示唆しています。
単なるペットではなく、家族として、パートナーとして共に暮らす存在になったことで、犬の脳は新たな進化の道を歩み始めたのです。
これから先、犬の脳のしくみがさらに解き明かされていけば、私たちのコミュニケーションの質も、もっと豊かになるかもしれません。
そしてそれは、犬だけでなく、私たち自身の“脳と心”にも新たな気づきをもたらしてくれることでしょう。


